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「にしても、先輩が専門学校って意外ですね。大学行くのかと思ってた」
「ま、それでもよかったんだけどな。でも、どうせ学ぶんならやりたいことやりたかったし」
「……ふーん……」
横から俺のノートを覗き込んで数式を解く手順が間違っていないことを確認した先輩は、小さく頷いたあと自分の英語のテキストに向き直りピンクのマーカーで線を引いた。その横顔はいつも見ている先輩の顔とは違って見えて、将来を見据える大人の顔をしている。
同じ高校生といっても、やっぱり二年の差はこんなところに表れるなと思う。たかだか十六やら十七の餓鬼が何言ってんだって思うけれど。
小早川先輩は、高校を卒業したら理美容専門学校へ行く。
美容師になるのが夢だと教えてくれたのは、外気温をあたたかいではなく暑いと感じ始めた頃だった。そんなことを教えてくれるくらいには仲が縮まっているんだと実感してうれしかった。
そうしてなんとなく思ったのは、そういえば先輩はよく俺の頭を撫でてくれるなぁということ。
最初は子供扱いされてるみたいだと憤慨して、その次にもしかして愛玩動物のように思われてるのかとがっかりして、結局は可愛がられていることに変わりはないと思ったら構われる手の平がうれしくていつの間にかそれを享受している今日。
つまるところ、先輩はひとの髪を撫でたり触ったりするのが好きなんだろうなと思うのだ。その対象が、俺でなければならないなんてことはきっとないんだろう。
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