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「……」
受け取った眼帯に、右手の人差し指と中指を当て、蛍は徐に目を閉じた。
彼女の周囲の空気が、ざわざわと揺らぎ始める。
「---封詞、“口上の法”」
凛とした声で、彼女が口を開いた途端、眼帯の中央に紋様が現れる。
それは、ガーゼに吸収されるかの如く、次第に消えていく。
紋様が消えた後、蛍は弟にその眼帯を丁寧に付けた。
「…ありがと、ナオ。後は大丈夫だから…夾也を、お願い」
「…ああ」
一連の動作を見守っていた神原だったが、蛍のその言葉を聞いた途端に、踵を返して扉に向かった。
その右手を、ドアノブにかけてから---
「…受け入れろ」
一言だけ漏らすと、振り返る事なく出ていった。
そんな神原を見送った後、蛍はその相貌に苦笑を浮かべる。
「…“そうしたら、楽になれる”…でしょ?…全く、いつも言葉が足りないんだから」
不器用な人ね…と、誰に途もなく呟くと、蛍はギュッと…弟を抱き締めた。
「分かってる…。私達は、あくまでも“案内人”であって、選び取るのはこの子だって…」
柳眉を寄せ、やりきれない想いを吐き出す---
「…父さん…」
---言葉にならない、微かな音で。
***
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