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しまった。着いたのはいいものの拾ってくれた奴の見た目を聞いてない。うわーと思いながらとりあえず階段の下を見てみると、挙動不審にしているスーツ姿の男。その手には、ダックスのストラップがついた俺の携帯。
「あ、おった。」
後ろから声をかけると大げさなぐらい肩を跳ねあげてから振り向くそいつ。背ぇたか。色白。
「あ、あの…」
「拾ってくれてありがとう。それ、俺のやわ」
「え、あ、はい」
目を合わせてくれないがまぁ男前。モテるんやろなぁと思いながら携帯を受け取り、何となく、アーティストの勘というか。何かがこいつと縁を切ってはならない、と言っているような気がして。
「なあ、俺今からスタジオやから無理なんやけど今度お礼するから連絡先、交換しよや」
「うえ、」
前言撤回。こいつはモテん。やってむっちゃ挙動不審やもん。目泳ぎまくっとる。おもろ。
「なあ、あかんの?」
「や、あの…だって、」
「だって、何?」
「…貴さん、ですよね。華鬼の。」
華鬼(はなおに)。俺が組むバンドの名前。あれ?こいつ、俺んこと知っとる。なんや、バンドとか興味なさそうな見た目やのにな。
「あぁ、知ってくれてるんや。ありがとう」
「あの、俺、むっちゃファンで…!」
さっきまでの挙動不審はどこへ行ったやら。ファンだというこいつは止まらんようになったんかぶわーっと話し出す。…あかん。スタジオ行かな。菊ちゃんに怒られる。
「すまん、有難いねんけどもう行かな。」
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