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何故彼がそこに立っているのだろうか。まさか、バラバラだった体が一つになったのだろうか。それならば何故? まだ左手は届いていないのに。
……思い出した。山口君には、左手がなかったんだ。
彼には左手がなかった。そのために彼をいじめていたのだ。彼の体は、すでに揃っていた。
「駄目だよ」
少年が口だけを動かし、無表情のまま話し出す。その声ははるか昔に聞いたもの。間違いなく山口君のものだった。
「君が簡単に死ぬなんて、許さない」
山口君が小さな一歩を踏み出してくる。そのたびに恐怖心が増大し、息が乱れる。いっそ肺や脳さえも金縛りにあってしまえばいいのに。
すでに彼は手を伸ばせば届く距離まで近づいている。辺りがひんやりとした空気に満ちているのは彼の影響なのか、それとも悪寒からそう錯覚しているだけなのか。
「僕ね、すごく苦しかったし、辛かったんだ」
その声に刺激されたかのように、昔自分が山口君にしてしまったことが思い出される。鍵が外れた脳内の扉からは、昔の記憶が止まることなく溢れ出してくる。
「ずっと、殺したかった」
彼の目は無表情に暗く濁ったままで、口だけがゆっくりと静かに笑った。
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