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「ふぅー、食った食った」
市の飯屋で食事を済ませ、俺は今後のことを考えていた。
(金はもうほとんど無ねぇし、またちょこちょこ仕事を探すしかないか……)
はぁ、と小さなため息をついて店を出ようとしたら、突然店主に呼び止められた。
「おいあんた、その身のこなしからするとこの辺りの者じゃないな」
「あぁ?」
俺が振り向くと、店主がなにやら言いたげな表情をしていた。
「わしだって若いときは武器を取って戦っていたからなぁ、あんたが只者でないことくらい一目でわかる」
「へぇ、おっちゃん昔武士だったんか」
「なーに、もう昔のことさ」
そう言って、店主は遠い目をし、語りはじめた。
「若いころは血気盛んだったからな、野望の一つや二つあったもんだ」
「野望ねぇ……」
「今は乱世、あんただってまだ若いんだ、戦で手柄を立てれば出世できるのに、勿体ない」
「悪いが俺はこの間御役目御免された身でな、今はとてもじゃないがそんな気にはなれねーよ」
それにもう、あそこには戻れねぇしな……と利家は聞こえないように小さくつぶやいた。
「夢がないねぇ……それであんた。この先、いく宛はあるのかい」
「いんや、まだ未定だ。いい稼ぎ口があればと思っていたんだが……」
お先真っ暗とはこのことだ。
このままだと本当に、近い将来野垂れ死ぬことになってしまう。
それだけはどうしても避けたい。
すると店主がそれを聞いて、にんまり顔でこう切り出した。
「それならあんた。いい話があるぜ」
「なに……?」
「二軒先の葬儀屋の店主がな、なんか男手が欲しいとか言ってたのを聞いたことがあるから行ってみな。結構良いらしいぜ」
と、手でお金のポーズをしてみせる。
「マジか?」
「ああ、マジだとも。それにこれも何かの縁だしな。頑張れよ若造」
そう言ってさらに少量の食料とお酒を渡してくれた。
「なにからなにまで本当にすまねぇな」
「なーに、こんなご時世だ、わしらがいつまで生きてるかはわからん。でもあんたみたいな若造がいりゃ、いつか世の中が良くなる……そう思うのさ」
「おっちゃん……」
「若いうちはなんでもやっときな。若造! 後悔する生き方は絶対するんじゃないぞ!」
店主は最後に俺の背中をバシンと豪快に叩き、送り出してくれた。
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