序章

2/2
前へ
/190ページ
次へ
公園に一人立ち尽くしていた少年は、男性の姿を確認すると、小走りで近寄り話し掛けていた。 「人間って宙に浮く事が出来るんだよ。」 「んっ……。」 突然の少年の言葉に、吹雪京介(ふぶききょうすけ)は一瞬戸惑っていた。 戸惑う京介に、少年は更に語る。 「お母さんがね証明してくれた。」 「ふん。そうですかい。」 いきなり近寄って来た少年を、少し迷惑そうに感じていた京介は、その場から離れようと少年に背中を向けて歩き始めていた。 立ち去る京介の背中を見つめながら、顔に悲しみを浮かべた少年は京介に語り出す。 「でもね……。その日からお母さん。喋らなくなったんだよ。」 「えっ……。」 少年の言葉の内容に、京介は歩みを止める。 そして、頭の中である事が浮かび上がった。 人間が宙に浮く。 その日から喋らなくなった。 京介は振り返り、少年の顔に目を運んだ。 悲しそうな少年の顔の、左目の下の三つに並ぶ泣きぼくろは、まるで黒い涙を流している様だった。 「坊や名前を聞いてもいいですかい。」 「僕、牧だよ。牧定晴(まきさだはる)だよ。」 「ふぅー。そうですかい……。」
/190ページ

最初のコメントを投稿しよう!

235人が本棚に入れています
本棚に追加