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公園に一人立ち尽くしていた少年は、男性の姿を確認すると、小走りで近寄り話し掛けていた。
「人間って宙に浮く事が出来るんだよ。」
「んっ……。」
突然の少年の言葉に、吹雪京介(ふぶききょうすけ)は一瞬戸惑っていた。
戸惑う京介に、少年は更に語る。
「お母さんがね証明してくれた。」
「ふん。そうですかい。」
いきなり近寄って来た少年を、少し迷惑そうに感じていた京介は、その場から離れようと少年に背中を向けて歩き始めていた。
立ち去る京介の背中を見つめながら、顔に悲しみを浮かべた少年は京介に語り出す。
「でもね……。その日からお母さん。喋らなくなったんだよ。」
「えっ……。」
少年の言葉の内容に、京介は歩みを止める。
そして、頭の中である事が浮かび上がった。
人間が宙に浮く。
その日から喋らなくなった。
京介は振り返り、少年の顔に目を運んだ。
悲しそうな少年の顔の、左目の下の三つに並ぶ泣きぼくろは、まるで黒い涙を流している様だった。
「坊や名前を聞いてもいいですかい。」
「僕、牧だよ。牧定晴(まきさだはる)だよ。」
「ふぅー。そうですかい……。」
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