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牧がスカーズに来て約一ヶ月が過ぎていたのだが、借りている家に誰かが訪ねて来る事は、この日が始めてだった。
来客の相手が誰か検討も付かない牧は、恐る恐る扉を開けていた。
扉の先には、三十代ぐらいの男性が立っていたのだった。
男性の身に付けている物は、光輝く高級時計に、高そうなスーツを着こなしていて、ただ者ではない雰囲気が男性の回りに漂っていた。
牧も直感ですぐに、目の前の男性の大きな存在感を肌で感じていた。
先程の床で踞っていた痛みも忘れる程、体中の神経は目の前の男性に集中していた。
「すいません。どなたですか。」
「牧君だな。」
「はい。」
誰だこの人は、なぜ僕の名前を知っているんだ……。
「少しお邪魔するよ。」
男性は、半ば強引に牧の承諾も聞かず、牧の生活する家の中に入って行った。
突然の訪問客が勝手に家に入ると言うあまりに失礼な態度に、男性に対する牧の第一印象は悪かったのだった。
「ちょっと待って下さいよ。誰ですか貴方は、家に勝手に入らないで下さい。」
牧の言葉に男性は、スーツの内ポケットから名刺入れを取り出して、一枚の名刺を抜き取り牧に差し出していた。
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