第零章 プロローグ

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二人の男がエレベーターに乗っていた。 ドアの脇で腕を組み、一部の隙も見せず佇んでいるサングラスの青年は『ジョージ・スターキャッスル』。服のラインすら変化させるがっしりとした体躯からは、彼の戦闘能力の高さが伺える。彼はエージェント、簡単に言えば警護を生業としている者で、そのために鍛えた体である。 もう一人、窓側の手すりにもたれかかり、窓の外を眺めてはニタニタと笑っている男が『クリストフ・ヴィット』、ドイツ人だ。元看守という話だが、詳しい経歴はわかっていない。 エレベーターの窓からは、テキサス州ダラスの町が一望できた。朝の傾いた太陽に照らされて、町は光と影を彫刻したミニチュアのようだった。路地からは、サビと朝露に濡れた地下鉄の通風口から蒸気が立ち上り、駅からは堰を切ったようにサラリーマンがあふれでていた。町が目覚める時間だった。眼下の車道を行くセダンがまるで豆粒のようなサイズになった頃、エレベーターが止まった。電光掲示板には60Fと書かれている。 駆動音と共にドアが開き、二人はエレベーターから降りた。他の階と造りが違い、エレベーターの外はそのまま部屋になっている。ここはSPW財団本部ビル最上階、つまり代表の部屋だ。 部屋の奥から二人を招く声がした。中は薄暗く、奥が一面ガラス張りになっているせいで逆光となり、声の主はシルエットでしか確認できない。その人影はずっしりと重たそうな、まるで大統領が使うような机の向こう側の革張りの椅子に座ったまま、ジョージとヴィットを見据えていた。 「そこのソファーにかけてくれ。楽にしてくれて構わない。」 「いや、このままでいい。」 ジョージはソファーの背もたれに手を置いたまま答えた。その声はどこかいつも一本ピンと線が張っているというか、相手に緊張感を与えるような重苦しい調子だった。ジョージはいつもそうやって喋る。それは常に警護対象に対して気を張り詰め続けるジョージの職業病のようなものだった。椅子に座らないのも、とっさの反応を鈍らせないためだ。
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