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卓がシークこと空也に助けられた頃。
“帝国”――アブソリュートエンペラー、首都シュバルツェにある王城の牢獄に一人の訪問者が居た。
牢獄を点々と照らす、小さな蝋燭の炎の光に映える純白のワンピースに純白のサンダル。闇に映える、肩より少し下まで伸びた黒髪。そして、はっきりと輝くエメラルドの瞳。
牢獄には似合わぬ姿をしたその者は、軽やかに足を進めていた。
少し歩いた先にある、一つの牢獄の前でその者は足を止める。
そして、少し低い声で中に居る人物へ話し掛けた。
「……調子は、どう?霧斗(きりと)」
「……何の用ですか、夏蓮(かれん)」
牢獄の中に居たのは、『霧斗』と呼ばれた一人の青年。
牢獄の中で手足が動けぬよう、鎖で拘束されながらも、アイスブルーの瞳で『夏蓮』を睨み付けていた。
霧斗は白地に幾つもの獣を型どった刺繍がしてあるローブで身体を覆っているが、それはところどころが黒い染みのような物で汚れていた。……これはただの汚れではなく、血の跡である。
彼は傷付けられた上に、牢獄に放り込まれたのだ。
睨み付けられながらも、夏蓮は視線を真っ直ぐにして霧斗を見つめ返す。
双方の間に流れる、沈黙。
しばらくの沈黙が続いた後に、夏蓮の唇が開かれ――言葉が紡がれる。
「……どうして、そうやって逆らい続けるの?」
逆らったって、彼らには敵わない事くらい理解してるでしょう?
響く低い声。
姿と声がちぐはぐな夏蓮はそのまま言葉を続けた。
「それに、アナタと彼らでは力の差がある。……覆せない程の、差が」
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