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「分かってる!……分かってる……分かっているよ……」
言い返そうとする霧斗の声はだんだんと弱くなっていく。それでも、この場から出たい気持ちが昂っているらしく、鎖がジャラジャラと打ち鳴らされる虚しい音が反響した。
「……まぁ、安心して。
霧斗の携帯と『本』は、“彼女”が預かっているわ」
低い声は変わらないが、先程までとほんの少しだけ違う声色を弾ませて、夏蓮は話を変える。
「“彼女”って……」
霧斗にも心当たりがあるらしいが、有り得ない、とでも言うように目を見開かせて驚いていた。
「…どうやって?
“彼女”はどうやって……」
「……半ば奪いに来たの。気に入らない、って言って」
あれで良く投獄されないものね、と会話を交わしながら夏蓮は呆れた様子で溜め息を吐く。
具体的に言っては居ないが、それだけ“彼女”が行った行為が凄かったのだろう。
「……まぁ、此処から出たら取りに行けば良いと思うわ」
「……会ったら、お礼を言っておいてくれな」
「出たら自分で言いなさい。じゃ、僕は帰ります」
まだ牢獄から出られそうにない霧斗との会話を断ち切れば、夏蓮は踵を返してその場から立ち去ったのだった。
――――場面は変わり、“帝国”の首都、王城の一室。
その部屋は白いペンキで塗り潰したような、真新しい雰囲気を感じられる。
そんな部屋に、二人の人物が居た。
一人は新品のスーツのような服を着込み、腰から革製のホルスターを下げている青年。
もう一人は、いかにも魔法使いです、とでも言えるような黒いローブを羽織っていて顔をフードで隠していた。
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