さよならの忘れ物

新しい日常

授業が終わった莉子は、和真との待ち合わせ場所へ向かう。

人の多い街中で見つけた和真は、携帯に視線を落とし音楽を聞いていた。

気付いて欲しい気持ちと驚かせたい気持ちが交錯し、ゆっくりとした足取りで近付く。すると、携帯を操作する和真の手が一瞬止まり、表情が微かに動いた。

距離はそんなに近くはないし、和真は一度もこっちを見ない。なのに、気付かれたと感じた。

少しがっかりしながら、試しにと静かに近付き、携帯画面を両手で隠し、下から和真の顔を覗き込む。

「お待たせ！」

驚かせようと勢いをつけ言ってはみたが、予想通り和真に驚いた様子はなく、その顔には柔らかな笑みが浮かんでいた。