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あれは確か10月頃。
温暖化が進んだとはいえ、すっかり秋めいてきた時。強い日差しを毎日浴びていた木々や草花は、力強い緑色から、ところどころ 赤みがかった茶色になり、町ゆく人々の服装も、眩しい程の真白いシャツから、団栗色のジャケットに変わりだした時期だったと思う。
白衣の麗人…ヒカルが、私を病院の喫茶店に呼んだ。
ヒカルはどこにいても目を惹いた。
顔の造りは女性だった為、ヒカルは鼻の下に髭を生やし男性顔に見せていた。
そして少し天然がかった緩やかなウェーブの黒髪は、綺麗に短く切り揃えていた。
ヒカルは学生からよくもてていた。
女性からも男性からも。
だから、大概ヒカルの周りには誰かしら人がいたが、その時に限って、取り巻きは1人もいなかった。
ヒカルは常に存在感のある人間だったが、時として空気のように、自分を消した。
だから多分、私と内密な話をする為に、存在感を消していたんだと思う。
ヒカルと私は珈琲を啜りながら煙草を喫み、たわいない話をした。
そんな話をする為に呼んだわけではないことはわかっていたが、私は付き合った。
そして、下らない話を一通りし終え、暫くの沈黙の後、ヒカルは何本目かの煙草に火をつけ、言った
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