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『君に僕の手術の執刀をお願いしたいのだが』
私は驚いた。
思いもよらぬお願いに驚いたのではなかった。
多少なりともヒカルが私に、その申し出をしてくるような気がしていた。予感が的中した。だから驚いたのである。
私の手術の腕は、絶賛されていた。そして、ヒカルの心臓の手術であろうと、どちらかの性にする手術であろうと、こなせる自信があった。
だから、今回の手術は、最初から引き受けるつもりだった。
でも、意地悪をしたくなった。
『何の手術だい?君の心臓の手術かね?』
『違うよ。僕を全うな人間にしてほしいんだ。』
『君は自分が全うではないと思っているのか?どこがだね?世の中には比べものにならない程全うではない人間がいると言うのに』
『僕は、女でも男でもない。それが全うだとは思えない。僕は、怪物なんだよ』
私はヒカルに言いたかった。
君は怪物なんかじゃない。
君は神がお造りになった存在なんだと。
しかし何故か私の口からはその言葉は出なかった。
出してはいけないような感覚に陥った。
それを言ったら最後、ヒカルが本当の神の領域に行ってしまう気がして恐ろしかった。
私にとってヒカルと別れる時はどちらかが命を落とすような気がしていた。
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