動物園

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動物園で獣臭の独特な匂いをさせながら、二匹のインド像が柵の中で夏のやる気なさ全開で横になっている。 俺と加藤はこれまた夏のやる気なさ全開でベンチに座っている。 「事情はわかった!!アイツの母親が突然来てデートはキャンセル、今晩宿無しの2連コンボと!!」 加藤が飲み干した缶を両手で潰してゴミ箱へ放り投げた。 缶がキレイな放物線を描いて見事にゴミ箱へと入っていった。 「だってさ、行けないってわかると無性に行きたくなってしまうもので」 「しかしなんで動物園で男二人、酒飲んで。ついてくる俺も俺だが」 「……で、木村は今日も仕事?」 「いや、あいつは風になったよ」 「ところで加藤、お前今朝のニュース見た?」 「見てねぇ、何かあった?」 僕達はベンチから立ち上がり、園内の看板に従って次のキリンの柵を目指して歩き出した。 「まぁ、いつも通り株が上下して、どっかで殺人があって旬の魚が美味しいですね、なんだけど。やっぱ世の中って紙一重のバランスで成り立ってんのな、って思ってさ」 「はぁ?」 「そんな中、だらりとフリーターやってる俺ってなんだろう。とか思って。僕達は今、動物園に来て癒され中だけど。実はここって世界中の動物がいるかなり異常な環境で、その中に俺らはいたりしてさ――!!ひいては虚構と異常に溢れた世の中と、それに順応してむしろ退屈な俺達って!?」 加藤はキリンの柵に手を掛け、柵に背中を預けるように寄りかかった。 「ハイハイもういいよ、そうゆうの。お前未だにそんなこと考えてんの?ま――アレだ。溜まってんだよ。そろそろ真剣にバンド再開したほうがいいんじゃね―…にょっ!?」といい終える前に加藤の顔が両手で潰される。 「じゃあナニですか?俺が本気で音楽やるよって言ったら、大学6年の加藤君はすべてを捨てて俺についてきてくれんの?」 加藤も両手でやり返す。「つ―か、お前こそ世の中憂う以前に現実的な問題盛りだくさんだろ!?お前ヒモじゃん、なのに彼女は無職じゃん!!」 「ふはははは」 柵から長い首を出したキリンが加藤の首を舐めた。 「うぉ!な……なんだ!!キ…キリン?」
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