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翼を傷めた黒彩鳥
今日も果敢に蒼空を行く
***
見渡す限り大樹に覆い囲まれた
深い深い森の中
1羽の鴉が岩の上に降り立ち羽を休めていた
『鴉さん、隣で休ませてくれるかな?』
そう言って隣に腰をおろしたのは幼い少女だった
『あぁ、好きにするといいさ』
『ありがとう』
こんな人里離れた樹海に少女が一人でいるのだから、何かあったのは明確だ
鴉は問いかける
『お前、なんでこんな所へ来たんだ?』
『森の獣さん達に、食べられようと思ったの』
『わざわざ食われにきたのか?変な奴だな』
『うん、そうね』
全てを諦めたかのように、渇いた声音で少女は微笑んだ
鴉は何となく彼女の気持ちを悟ると静かに毛繕いをし始めた
黙って眺めていた少女は鴉の羽を見て驚いた
『―…鴉さん、羽』
『あぁ、前に鷲に毟られたんだ』
『いたく、ないの?恐くないの?』
『痛かったし、認めたくないが恐かったよ』
少女は胸の辺りをぎゅっと掴んで黙って聞いていた
『それにプライドはズタズタで、いっその事、そのまま食われてしまったほうがいいと思った』
『…そう、なんだ』
俯き泣きそうな声で少女は呟いた
そんな少女を見据え鴉は言った
『だが俺の身体は、心は、生きたいと願った…食われそうになった時、ボロボロの翼が羽ばたいて…気付けば空に飛び立っていたんだ』
ハッとしたように目を見開き自分をみる少女に鴉はこう告げた
『俺は死にたくないから生きる。…死にたくないから空を飛ぶんだよ』
その言葉は、少女の心に大きな衝動を与えた
『―死にたくないから生きる…そうだよね。なんだか食べられるの勿体なくなっちゃった』
えへへ、と笑う少女
『懸命な判断だな』
そう言い、再び毛繕いをし始めた
『帰り道は、わかるか?』
『うん、大丈夫』
『ならいい。俺もそろそろ帰る』
羽を大きく広げると飛び立つ準備をした
『鴉さん、私ね…森の外れにある小さな家に住んでるの。遊びに来てくれる?』
『あぁ、行ってやるよ。お前が居て窓を開いていたなら…骨休めしてやってもいいぞ』
『ふふ、ありがとう鴉さん』
『ふん、礼には及ばん…』
***
翼を傷めた黒彩鳥
今日も果敢に空を行く
見送る少女の胸に
―確かな、光を残して…
*end*
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