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 初夏の風が金の稲穂を揺らす。  遠くには深い森が大地を多い、そこから伸びた細い小川がキラキラと陽光を反射している。  見かける人影は少なく、いたとしても半分は案山子だ。  そんな穏やかな田舎道を、少々場違いな四頭立ての馬車が走っていた。  都市に比べると整備されているとは言い難い道をなかなかのスピードで走っているが、スプリングが効いているのか車両より上はあまり揺れていない。  事実、中に乗っている女性はその青の瞳をぴくりとも動かさず、幾つかの冊子に目を通していた。  長い足に踏み付けらている大きな旅行かばんには、「リチェル・ライツフォル」と達筆な字でかかれた名札が揺れている。  緩く波打った金の髪は柔らかく、肌は陶器のように白く澄んでいる。まさに、どこぞの良家のお嬢様ですと言った風貌。  だが、彼女を取り巻く雰囲気は剣呑なものだ。 「やっぱり向こうで出来た手続きも幾つかありましたわね……早く片付けて帰りたいといいますのに」  目頭を押さえて、冊子を横に置き深々溜息を付いた。
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