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ここは、どこ?
私は、どこから来たの?
帰りたい……でも、どこへ?
何一つ、分かっていない中で一つだけ覚えていたこと――。
「私は……アリス。アリス・リデル」
唯一、自分の名前だけは覚えていた。
激しい頭痛と動悸はいつの間にか納まっている。
さっきまでの苦しみは無くなったはずなのに、まだ胸が苦しい。
どうして名前しか覚えていないのか、疑問には思ったけど、これ以上考えたくはない。
また、さっきのような苦しみを味わいたくないから。
「……これから、どうしたらいいのかしら」
当然、知らない場所にいる私は、どうすることもできない。
助けを呼びたくても、真っ暗な森の中じゃ誰もいるはずがないし……。
私は、途方に暮れて天を仰いだ。
何一つない――星すら輝くことのない真っ暗な闇を。
眺めているだけなのに飲み込まれてしまいそうな空。
よく分からないけど、私は涙がこみ上げてきた。
何一つない空が私とかぶって見えて、怖くなったのかもしれない。
私は誰もいない森の中で一人静かに泣いた。
きゅっと唇を噛んで声を押し殺しながら、流れてくる涙を拭うことはしなかった。
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