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「あっ……」
正気に戻り、先程の出来事を思い出した。
何者か分からない目の前の人。
声を掛けたのに、返事をしないで近づいてくる相手も悪いと思うが、傷つけてしまったのは私。
そう思うと相手に対し引け目を感じずにはいられず、謝ろうとした。
しかし、恐怖と狂ったように叫び続けていたせいで思うように声が出てこない。
「あ……あのっ」
「あぁ、大丈夫ですか?驚かせてしまってすみません」
やっとのことで声を絞り出せたと思ったら、先に相手に謝られてしまった。
バリトンの効いた、少し優しそうな男性の声に少しだけ、気持ちが落ち着いた気がした。
「いえっ、私の方こそすみませんでした!!」
男性がいるであろう方を向いて、頭を下げる。
暗い森の中では、相手の姿を見ることができないので困る。
そんなことを心の中でぼやいていると、目の前が明るくなった。
「えっ……」
「あ、やっと顔が見れました」
そう言いながら微笑む男性。
その手にはランプが提げられていた。
さっきまで、少しも明かりなんてなかったのに――。
ふと感じた違和感は、次の瞬間には吹き飛んでいた。
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