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「思い出してください。私は、白うさぎのラビですよ?貴女がくれた名前じゃないですか――アリス」
「ど、して……私の名前を……」
自分を白うさぎのラビと名乗った目の前の男は、私のことを“アリス”と呼んだ。
まだ、私は名前を教えていなかったはずなのに、彼は知っていた。
それに、自分に名前をくれたのは私だ、と言った彼の言葉の意味が分からなくて混乱してきた。
頭の中を無理矢理、かき回されているような感じがして気持ち悪い。
そんな私の心情を知ってか知らずか、ラビはスッ…と手を伸ばし、私の頬に触れてきた。
「どうして、ですか。……アリス、それは簡単な話ですよ。ただ私が貴女を狂おしいほどに愛しているから。――決まっているじゃないですか」
さも当たり前だと言わんばかりに話すラビが、少しずつ近づいてくるのを感じる。
さっきまで見ることのできなかったラビの顔が、息がかかるほど近づいてきたせいで今では、はっきりと見えてしまう。
あまりの近さに驚いて目を見開くと、ラビと視線がぶつかった。
目を奪われるような真紅の瞳。
それが一層、彼が白うさぎだということを鮮明にしていた。
金縛りにあったように体は動かず、ラビにされるがままになっていると触れるだけだったはずの手が、私の頬をゆっくりと撫で始める。
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