僕と猫婆ちゃん

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「ここは、猫の巣なんだよ」   深く深くしわを刻んだ顔に、くしゃあっと笑顔が花開く。  猫ばあちゃんは僕より何倍も長生きしているはずなのに、僕と同じ目線で世界を見ていた。  猫ばあちゃんの丸まった背中は猫の背中みたいだねと言うと、彼女は嬉しそうに目を閉じ、さらに顔をしわくちゃにして笑った。 「んだね。ばあちゃんは猫の神様だから、背中も猫みたいに丸くなってまったの」  小高い丘の上にある古民家が、当時小学五年生の僕と自称“猫の神様”の猫ばあちゃんの棲家だった。  父と母が交通事故で死んでから、僕はこの家で生活している。  風が強く吹けば家は軋み、天高く陽が昇れば蒸し風呂になり、世界が真白に染まれば二人で体を寄せ合う。  一人で住むには広い家だったので、僕が住み着くようになったことを猫ばあちゃんは嬉しそうに思っていたと言う。  私は重要文化財よ、と言わんばかりに威風堂々としている古民家は、周囲の村人からは“猫の家”や“猫の棲家”などと呼ばれていた。そこに悪意や嫌味はない。  雑貨屋の妙おばさんは「あんたんとこの家に、よく野良猫が遊びに行くからね。昔っからあの家は猫の家なんだよ」と笑いながら話す。
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