僕と猫婆ちゃん

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 いつの日か、記録的な大雨が村を襲った夜。  僕は真夜中にも関わらず土足でずかずかと侵入してくる来訪者に、なす術もなく困り果てていた。  今時珍しい茅葺の屋根からは止めどなく雨水が滴り、ところどころ水たまりが出来ていた。  茅葺の屋根や、情緒あふれる大きな囲炉裏、威張って台所を占拠している竈(かまど)、歩く度にきぃきぃと鳴く床。  まるで秘密基地のような感じがして猫ばあちゃんの家は好きだったが、この時ばかりはさすがに嫌気がさした。  眉間にしわを寄せて唇をツンと尖がらせている僕の目の前を、せっせと歩きまわる猫ばあちゃんの姿が映る。  台所の食器棚から持ってきたのか、大小様々な器を雨水が滴り落ちる場所に置いていた。  雨漏りしている場所は十か所以上あり、一個器を設置し終わるとまた台所に行き食器を手に取り、居間に戻ってくる。  猫のように曲がった背中を必死に伸ばし、天井を見上げて雨漏りしている箇所を探す猫ばあちゃん。  その顔は、まるでいたずらをしているような、何かの罠を仕掛けているような、そんな楽しげな表情だった。
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