僕と猫婆ちゃん

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「何でそんなに楽しそうなの?」  ぶすっとしたまま、せっせと動き回る猫ばあちゃんに問いかけると、まるで他の誰にも聞かれたくないかのように、彼女は僕の耳元で囁いた。 「屋根がら水が皿っこさ落ちてくるべ? ぽちゃーん、ぴっちゃあん、ぽちゃぁん。その音が音楽隊の演奏みたいだべ。自然の〝おーけすとら〟だべ」  小さなしわだらけの手が僕の耳を包み、音がよく聞こえるようにする。  そして「静かにしてみ」と言い、唇に人差し指をあてる。  ぽちゃーん  ぴっちゃあん  ぽちゃぁん  とっぷん  ぽっちぃぁん  時々“タンッ”と甲高く雨水が歌った。  瀬戸物の器は鈍く低い音を、金タライは甲高い金属音を、水が一杯に溜まった器は静かな水面に石を投げ込んだような。  息をひそめ耳を澄ませると、なるほど自然のオーケストラだ。 容赦なく降り注ぐ雨水に濡れながら、僕と猫ばあちゃんはしばしの間音楽隊の演奏に聴き惚れていた。 「こったに古い家だども、住み慣れれば都だ。そこら中さ楽しいこと隠れてるはんで、探してみ」  そう言うと、次の器を探すために小さな猫の神様は再び台所に消えていった。
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