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その昔、妖界の山々には必ずと言っていい程に、天狗の姿を見ることが出来た。
それは天狗が守護者として、山の秩序を守っていたからである。
山は、妖達の遊び場であり交流の場でもあったから、その秩序を乱す者があれば天狗が戒めてきた。
とはいえ、妖界の秩序を乱すものなどいなかった。
大妖が、はびこるまでは……
山から天狗が消えた日。
一体の小天狗が、大妖の傍らに佇んでいた。
仲間を裏切り、己の欲望のまま力を得ようとした天狗は、あまりにも小さな存在であった。
カラス天狗。
その顔は鳥類のそれでありながら、人身を有しており人間界で言うところの修験者の衣を身に纏う。
人語を使いこなし、巨大な妖気を備えられるだけの器を有していた。
『小天狗が、我に何の用だ』
「力を、力を欲しって参りました」
『ほぅ、力とな』
「はい。この小天狗、天狗属の中でも非力で妖気も弱く、山に入る事すら許されません」
『それで?』
「大天狗になりたい。そして、山を統べる者になりたいのです」
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