天才なんて死ねばいい

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試合後の夜。 春の夜風が吹く、少し肌寒い道を家の最寄り駅で降りた拓哉が歩いていた。 「あーあ…、俺って本当に才能ないよな…」 拓哉が何ともなしにつぶやく。今日の試合は散々でワンアウトも取れずに交代を告げられた。拓哉と交代した謙吾は、ノーアウト三塁というプレッシャーのかかる状況で球を低めに集め、見事3者凡退で抑えて追加点を許さなかった。謙吾は学校は違うが、拓哉と同じ中学経験の選手だった。試合後はチームメイトに謙吾と比較され、拓哉の心は沈んでいた。 「俺と謙吾の何が違うのかな…」 また拓哉がつぶやく。足どりは重く、道の脇の街灯が照らす拓哉の影はゆっくりと前に進んでいる。 こんな時、拓哉の頭によぎるのは「才能」や「天才」という言葉だった。世の中には確かに天才と呼ばれたり、才能があると賞賛される人達がいる。そして自分はそっち側の人間ではなく、非凡で才能がない人間だ。謙吾が経験の差もないのに俺より上手いのは、謙吾には才能があるからだろう。俺が謙吾に負けるのは生まれた時から決まっていたことだ。 「天才なんて、才能があるやつなんて、死ねばいいのに…」 もはや口癖となってしまった言葉を拓哉はつぶやいた。
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