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気分を晴らすために,奏太は外を見るのをやめてヴァイオリンを構えた。
目を瞑ってゆっくりとメロディーを奏でる。
美しい旋律が部屋に響き渡った。
ヴァイオリンも父が先生を家に呼んで習わされた。
最初は嫌々だったけれど,段々と好きになった。
習い事の中で唯一嫌いじゃない習い事だ。
レッスンは嫌いだけど,自分で好き勝手ひくには趣味といえる。
昔,『美しい音色には人を幸せにする力がある。そんな音色を奏でるような人になって欲しいという意味が奏太の名前に込められているのよ。』と母が言っていた。
母は有名なビオラの奏者で音楽は人の気持ちを幸せにするとよく言っていた。
音楽は好き。
聞くにしても演奏するにしても。
でも自分の演奏で幸せになる人がいるとは思わない。
まず幸せという気持ち自体理解できない。
だけど,なぜかその言葉を信じてみたいと思うときがある。
どういう風にかはわからない。
でも,幼い僕は純粋に信じたいと思ったんだ。
その思いが残っているのかもしれない。
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