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「全帝様!戦える者は全て並ばせてあります」
場所は広い荒野の崖の上。
背中に “全帝” と刺繍の入った黒のローブを着た男に、片膝を岩肌に付け、跪いた男が報告した。
「わかった」
そう呟きとも取れるほど小さく答えた全帝に、跪いた男が心配そうに問う。
「我々は勝てるのでしょうか?
全帝様、七帝様、ギルドマスター様がいらっしゃいますが戦える者は僅か三千人……。
しかし敵はまだ五万以上。
私は心配でなりません……」
頭を下げたまま、声を震えさせた。
「そんな気持ちでは勝てる戦いも勝てない」
「しかし! ……すいません……ですがこの人数差では……」
思わず下げていた頭を持ち上げ、声を荒げ反論する。すると緑色のローブを着た女性が全帝の背後から近づいていた。
七帝の一角、風をスペシャリストたる彼女の背には “風帝” の文字が刺繍されてるだろう。
しかし、その大仰な呼び名に反して、身長にローブの大きさが合っておらず、裾をひきずっている。
「ならさ、私達が一人、五千倒せばいいんだよね~」
その声音に戦前の緊張感は全く感じない。まるで野原で景色でも見ているようにほんわかとした声で、風帝はとんでもないことを言ってのけた。
「いくらあなた方でもそれは!」
「こまけーことは気にすんなよ!なんとかなる……さっ!」
未だ片膝付いたままの男は突然、背中を勢い良く叩かれた。体勢を大きく崩し咳き込む中、犯人と思しき黄色ローブの巨漢が、大柄な笑い声を発し始めた。
そのまま男の横を通り過ぎる “雷帝” の後ろに茶色ローブの青年が続く。
“地帝” と刺繍されたローブを羽織る彼は腰に手を当てて、明るさまなため息をついた。
矛先は、全帝の隣に並んだ雷帝である。
「よく言うよ。敵の誰の目にもわかるような明るさまな罠に、わざわざ自分から突っ込んで行って重症負った癖に。しかも三回も繰り返すなんて、この学習能力のなさは馬鹿としか言い様がないね」
地帝が呆れたように言う。さらに最後に再びため息を付け加えた。
「ぐっ…お前だってお化け屋敷でびびってただろ!」
「へ~、可愛いところもあるんだね~」
雷帝の苦し紛れの反撃に、珍しく風帝が続いた。それにも拘らず、地帝は余裕を崩さない。
「あれはお前が後ろから大声上げたからだろう。僕一人だったら全然大したことなかったね」
「なにぃ!」
と、雷帝と地帝の間に火花が散る。 二人が出会えばいつもこうだ。
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