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結局、10分とかからずに29人全員を倒した2人は《穴》を確認した。かなり大きく見えた《穴》の周囲は窪んでおり、実際に《無》を湛える《穴》はずいぶんと深く、そして小さかった。
その為、覗き込もうとした彼らは偶然にも無事のままに位置を確認出来たのだ。もし、窪んでいなければ2人は消滅していたであろうという事実に気づき、胸の内にひやりと冷たいものを感じた。
エルが思わず呟く。
「別れの挨拶も無しはシャレにならないな……」
2人は《穴》の中を見ない様に背を向けながら、その前に立った。
「さてと……お別れだな」
「……寂しくなりますよ」
ヴァンの悲しそうな声に対し、エルは明るく返す。
「頑張れよ、石壊すの。
……ああ、そうだ。
もうナイフは必要ないからやるよ。
これが形見って奴だな」
そう言ってエルはナイフを手渡すと、ヴァンは受け取りながら言った。
「……私のを持っていってください。
あの世で互いが分かる様に」
そして、今度はヴァンが短刀を差し出す。
「……分かった、貰うよ」
エルは《あの世》などと言うモノは全く信じてはいなかったのだが、ヴァンとの最後の約束を形にしたい──そう思ったのだ。
ヴァンはそれに気づき、微笑み、礼を言う。
「エル=デストレイ、ありがとう」
フルネームで呼ばれ、エルは目を丸くする。
「よく名前覚えてたな。
じゃあ、な……ヴァン=クリストロフ。
会えて良かったぜ」
そう言うと、エルは静かに目を閉じて後ろに倒れ、そして──この世界から消えた。
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