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「ふー、食った食った」
「榊原、食い過ぎだ」
腹を軽く叩きながら言う榊原を見て、龍崎が呆れ声で呟いた。人に食い過ぎと言う割に、彼自身は大皿に山盛りで3人前はあろうかという量のパスタを10分で腹に収めていたが。
「お前に言われたかないよ」
「ま、良いんじゃないの?
どうせ今日はもうフリーでしょ?」
柿崎がいつになく真剣な眼差しで聞いた。榊原の反論は軽く無視した龍崎が相変わらず無愛想なまま、答える。
「まぁ、そうだが」
「よし、やった!
翔ちゃん、司ちゃん、買い物行こうよ!」
柿崎は嬉しそうに、文字通り飛び上がった。彼女は一見所謂クールな、大人びた美人に見えるが実際のところは感情の起伏が激しく、わがままな子供の様な部分がある。彼女を前に男2人が靡かないのはその辺りが大きいのだろう。
「行かん」
「あ、俺行く」
龍崎と榊原は同時に答えたが、龍崎は立ち上がるとそのまま部屋へと消えた。柿崎は立ち去る龍崎の背中を膨れっ面で眺めていた。
「付き合い悪いなぁ……」
「まぁ良いじゃないか。
今に始まったことじゃない」
「確かにいつもだけど……
じゃあ行こ!」
柿崎は榊原を引っ張り、外へと飛び出す。扉が閉まる時、榊原の視線は子供っぽくはしゃぐ柿崎ではなく、龍崎の向かった奥の部屋へと注がれていた。
その視線の先、自身の部屋で龍崎はその短い黒髪を掻きむしり、ボロボロのノートを睨んでいた。
「違う……こうじゃない。
くそ、これは3000年前の奴に出来た事なんだ。
なら俺にだって……!」
彼がライバル視する相手は、今から3000年前に賢者の石を造ったと言われるある人物だ。その人物は石を完成させて後、半年と経たずに消えた伝説の男である。彼が石を持って消えた為に今現在石が何処にあるのか誰にも分からない。
ただ唯一彼の家系のみが扱えると云われる、伝承並の秘法で彼と共に何処かへ消えたと言われているが、その真相は定かでは無い。
そして、その男の血を継ぐ者がそばにいる。
それが、榊原司なのだ。
宿敵から研究仲間まで意識が回った所で、龍崎は黙って煙草を取り出すと魔法で火をつけた。
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