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「おいおい、飯ぐらい落ち着いて食えって。
わざわざ昨日から仕込んだんだからさ、ちゃんと味わえよ?
勿体ないぞ」
延々と呟きながら夕食を食べる龍崎を見て、榊原が文句を溢した。確かに料理はいつも榊原が作っており、しかも今回はいつも以上に力作であるのも事実である。だが龍崎の食べ方だけでなく、先程の榊原の早食いをも見ている柿崎は思わず苦笑を隠せない。
「司ちゃんも早食いなんだから人の事言えないでしょ」
「……あー。
それはまぁ、うん。
あ、えっと、そうそう──」
思わぬ横槍、しかも正論を言われてしどろもどろになった榊原は話題を変えようとしたが、ガタンという椅子の音に遮られた。あっと言う間に、先の榊原よりも早く食事を終えた龍崎は勢いよく立ち上がっていた。口元を袖で勢いよく拭うと立ったままグラスの水を一気に飲み干し、件の文献を引っ掴んだ。
「うんご馳走さま凄く美味かったよ明日の昼13時から実験開始な、あ、2人とも今日はありがとう」
一息にそう言うと、そのまま足早に部屋へと向かう。これから破られるであろう伝説に想いを馳せ、勝利を確信した笑みを浮かべながら扉の前で振り返る。そして、いつになく上機嫌に愛想よく、しかも手まで振りながら言った。
「じゃあ、おやすみ。
明日が楽しみだな」
扉が静かに、しかし素早く閉まる。残された2人はその様子を呆然と見送る他なかった。数秒の時が流れ、榊原が呟く。
「……上機嫌で愛想がいいと物凄く不気味だな、あいつ」
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