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──人々が全く同じ方向に進んでいく中、ただ一人だけその流れに逆らって動く男がいた。
「畜生め……」
彼──全身黒ずくめで黒髪、細身の背が高い青年……一八歳程度だろうか──は悪態をつきながら人々の波から掻き出た。
「全く……何で今まで気づかなかったんだ……」
彼はビルの間の路地に向かいながら、顔をしかめて呟いた。路地は薄暗く、ゴミが路地一面に散乱していたが、彼は靴が汚れるのも構わず200メートルほど進み、別の大通りに出る。
そして今度は人の流れを横から突っ切り、そのままツタの這った一つだけ小さいビルへ入った。
「ヴァン!ちょっと話がある!」
彼が入るなりそう叫ぶと、薄暗い建物の中に居た男が振り向いた。ヴァンと呼ばれた男は白い和風の服を纏っており、筋肉質で体格が良いが、少々背が低い。
ヴァンは堅い無表情のまま、黒服の青年に尋ねた。
『なんですか?』
「街を出よう」
突然の、そして彼にとって突拍子もない提案に、ヴァンは少し目を見開いた。黒服の青年の顔はそのわずかな変化を見て、にやける。
「どうだ?」
黒服の青年はヴァンに近づくと、真剣な表情でその顔を覗き込む。それに対し、ヴァンは首を傾げた。
『仕事ですか?』
「違う」
黒服の青年が即答するとヴァンは首を大きく横に振った。その顔は元の様に堅く、無表情のままだ。
『なら行きません。
それよりもエル、あなたの仕事はどうしたのですか?』
ヴァンが静かに答えると、彼──エルは吐き捨てるように言った。
「仕事なんて知るか。
それより、お前には説明しないと分からないよな。
……まぁここの奴ら全員説明してやらないと分からないだろうが」
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