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翌日、予定の時間になっても龍崎は部屋から出てこなかった。呼びに行こうとした柿崎を榊原が引きとめる。
「まぁほっといてやれ。
賢者の石がようやく完成しそうなんだからな。
飯ぐらい後でいいさ」
柿崎は黙って椅子に座ると既に冷めてしまった、龍崎の分のコーヒーに口をつける。2人共押し黙ったまま、ゆっくりと時が過ぎていく。
柿崎は俯き、榊原はぼんやりと宙を眺めていた。すると、榊原はふとどこか悔しく思う自分が居る事に気付いた。錬金術の最先端に立ちながら魔法を使えない彼は、その双方を要する賢者の石の問題を扱えない。錬金術単体、或いは魔法単体であれば龍崎を遥かに上回る2人であるが、どちらも龍崎の柔軟性、そして応用力には勝てなかった。
それぞれ得意分野があるとは言え、榊原が尊敬する人物に最も近いのが龍崎である事は彼にとって悔しい事だったのである。榊原が唯一尊敬する人物、それは彼の先祖であり、龍崎が好敵手とする遥か昔の人物。
彼の名は榊原神。《カミ》と書いて《ジン》と読む彼は、伝説の《人》物なのか、或いは実在の《神》仏なのか。いずれにせよ榊原にとって、龍崎が榊原神に追いつくのはやはり許しがたいものがあった。
それに、気付かされた。榊原は思わず歯噛みする。神に近づく為の「手段」が、龍崎の方が神に近づく、など。
「確かに話を持ちかけたのはこっちだが……
辿り着かれると悔しいもんだな」
榊原が呟く。決して柿崎に聞こえる様な声ではなかったが、俯いたままの柿崎はそれに答えるかの様に、静かに言った。
「でも、これで石は完成するわ。
もう翔ちゃんに怒鳴られないようになるね……
少しだけ、寂しいかな」
その時、突然扉が開いた。いつもの無愛想な聞き慣れた声、憎らしくも親愛なる彼のその声が、遂に時を告げた。伝説を打ち破る時を。
「おいおい、何をしんみりしてるんだ。
そこは喜ぶところだろう」
2人が扉の方を向くと、龍崎が腕を組んで立っていた。既に勝利を手にしたかの様な、今まで見た事がないほど嬉しそうな表情だ。ただ──
「さっさと造ろうじゃないか。
俺たちでカミサマを超えてやろう」
──その目には見事に隈が出来ていたが。
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