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3人はいつも通り白衣を着て、地下室へと降りた。この誇りくさい地下室で何度となく実験を繰り返し、何度となく実験を失敗してきた。普段通りに準備を行う3人だが、今日は榊原でさえ軽口を叩かない。響くのは器具のぶつかる音や歩く音だけだった。一通り準備を終え、龍崎が声をかける。
「では、始めよう」
龍崎が一晩で建てなおした理論を元に、実験を進めて行く。錬金術が苦手な柿崎は助手として、龍崎と榊原の注文に答えて動き回っていた。龍崎の指示以外の言葉が一切発せられない実験室には、常に張り詰めた緊張感がある。
男達がほぼ全ての過程を終え、柿崎の出番が来る頃には2時間が経過していた。龍崎が柿崎に手招きする。3人は顔を見合わせ、頷いた。
「よし、いくぞ」
龍崎の掛け声と共に、龍崎と柿崎は器に火、土、水、風そして雷の5属性の魔法を注ぎ込んだ。互いに引き合い、相反する魔法が器から溢れ出す。榊原は、2人が魔法を押さえ込んでいる様子をただ見ていた。
漏れた炎が柿崎よりも魔力の弱い龍崎の手を焼き、石が手を刺した。水は溢れて床まで水浸しにし、吹き抜ける風は数々の文献を吹き飛ばして部屋を荒らす。雷は轟音と共に迸り、電球を砕いた。暗くなった部屋で、その器だけが白く光り輝いていた。
器の輝きがだんだんと弱まり、遂に白い光が消える。2人が手を退けると器には鈍く光る、小さな血の如く紅い石があった。
「これが……賢者の石!」
龍崎の魔法で引き裂かれた手からは血が流れ出ていたが、意に介さず震える手でその丸い石を掴んだ。それは手のひらに収まる大きさだったが、鈍く光るその石は絶大な力を秘めている様に見える。
石を眺めていると突然部屋に光が差し込み、龍崎と柿崎は思わず目を瞑った。榊原が部屋の端にある採光窓のブラインドを全て開けたらしい。
「まぁ、案外あっけなく出来たもんだな。
俺にも見せてくれ。
……って龍崎、手は大丈夫か」
榊原が包帯を引っ張り出し、龍崎へ投げた。龍崎は飛んできた包帯を空中で受け取ると、わざわざ榊原の方へと歩いていく。
「包帯ありがとう。
ほら、石」
龍崎は石を手渡すと、石の研究書を取りに金庫の方へ歩いていった。龍崎が金庫を開け、研究書を手に取って振り向いた時──柿崎が両の掌を龍崎に向けていた。
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