探究の丹求者

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「さよなら、翔ちゃん…… 雷よ、焼き払え!」  柿崎の掌が眩しく輝き、龍崎は間一髪でそれを避ける。本棚が代わりに砕け散り、手に持っていた研究書は消し炭と化した。  柿崎の掌から放たれた、一閃の蒼い雷によって。 「柿崎! 一体何を──」 「風よ、切り裂け!」  龍崎が声を荒げたが、柿崎はその言葉を最後まで聞く事なく風の魔法を放った。龍崎は咄嗟に土の壁を作り、巻き起こる風の刃を防ぐ。  魔法を発動するのにいちいち何かを言う必要はないが、その方がイメージしやすくなり魔法が安定する。しかし敵に事前に何が出るか教える事になり、不利になりがちというのが定石……なのだが、「不利になる」と言うには柿崎の魔力は些か強すぎた。  龍崎の土の壁は風の刃に砕かれ、2秒と保たずに崩れ始めたのである。龍崎は慌てて壁の陰から飛び出した。あっという間に風が吹き抜け、部屋の壁を削り取っていく。 「榊原、早く止めろ!」  壁をあちこちに作りながら逃げ回る龍崎は叫ぶが、榊原は微動だにしない。榊原が手をかざす先には、奇妙な円形のものがあった。まるで空間を歪めているかのようなそれは、今や伝承でしかなかった筈のもの。 「まさか……あれは次元魔法!? 2人とも空間を歪めて逃げる気か!」 「土よ、打ち壊せ!」  龍崎の注意が逸れたその一瞬を、柿崎は見逃さなかった。伸びる円柱状の土塊は土壁を破り、逃げ損ねた龍崎に直撃する。部屋の壁まで吹き飛ばされ、思わず呻き声をあげた。なんとか起き上がろうとするが、膝をつくのが限界だった。顔を上げると榊原が片手を柿崎の前に伸ばし、牽制していた。その表情は嘲笑も同情も、そして哀れみすらも写していない。ただ、龍崎を見つめていた。 「何故だ……どうして。 俺を裏切るのか?」  全身の痛みと、裏切られたという思いで龍崎の顔が苦痛に歪み、そのまま俯く。  榊原は何も答えずに、ただ目の前の男に視線を注ぐだけだった。龍崎は立ち上がろうとしたが全身を襲う痛みで跪く。それでもなお、榊原に問いかけた。 「何故だ! 俺達はずっと仲間だったじゃないか!」
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