無死の夢視者

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 エルは肩をすくめながら、椅子の背を腹側にして座った。そして椅子ごとぐるりと回り、ヴァンの方を向いて腕を椅子の背の上に乗せる。 「……これまで生き続けていて、飽きたとは思わないか? そろそろ終わりが欲しくはないか?」  エルの質問にヴァンは再び少し驚いた様子を見せる。だが、その表情はすぐに元に戻り、先程と同様に静かに答えた。 『いいえ。折角手に入れた永遠の命です。 そんな必要は──』 「必要かどうか、じゃないんだよ」  エルはヴァンの言葉を遮る。 「永遠に生きる意味はあるのか? 昔から死あっての生、なんて言葉もあるじゃないか」  エルの言葉を聞き、ヴァンは大きな溜め息を吐くと、飽きれ返りながらも反論する。 『だからと言ってわざわざ死を求めるのですか? 愚かしいし、それだけじゃなく、反逆者になりますよ。 エル、あなたどうしたのですか?』  冷ややかに言うヴァンに対し、エルは椅子を横に蹴り飛ばして勢いよく立ち上がる。そして、怒りを持って机を殴り付けながら叫んだ。 「政府の歯車として意思無く生きる方がよっぽど愚かだ!」  政府──それはこの世界を不死にした者が作った管理機関であり、人々に仕事を与えた機関でもある。そして、長らく世界を支配し続けてきた機関でも、ある。 「ヴァン、分かってくれ……」  エルは苦しそうに続ける。 「それに、俺達は不死になるより前から友達だったじゃないか…… その俺の事は信じないのに政府は信じるのか?」  ヴァンはそんなエルを見て、再び大きな溜め息をついた。 『……分かりました。 もうずいぶんと昔から親友ですし、それに、あなたの性格から言ってどうせ私の意見は通りませんし……行くだけ行きましょう』  ヴァンは肩をすくめながら言う。すると、それを聞いたエルは急に元気になった。 「ヴァン、ありがとう。 じゃあ行こうぜ?」 『やれやれ……現金な事で』  颯爽と外に向かうエルを見て、ヴァンは先程よりもずっと大きな溜め息をついた。 『一体どうなることやら……』
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