無死の夢視者

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 人々が全く同じ方向に進んでいく中、その流れに逆らって動く男が今度は二人いた。二人が人の波を掻き分けて進むにつれ、辺りからは人気が無くなっていった。  しばらく歩き、遂に人が居ない街の郊外へと出ると、ヴァンが口を開いた。 『ところで……どうやって死ぬ気ですか? 私達は不死ですよ?』  ヴァンは先程まで無表情だった顔を怪訝そうな顔へと変えて言った。エルは歩きながらあっさりと答える。 「考えがある」 『一体どんな考えですか? 私たちは何も食べなくても……例え切り刻まれて肉片になろうとも死ねないのに?」  ヴァンの言う通り、不死身となった人々は何をしても死ぬ事は無く、ただ苦痛だけが残る。焼かれて灰になった者が、数百年かけて蘇ったという話もあった。  だが、エルは自信満々に答えた。 「500年前に街の郊外に世界の歪みが出来たって話……知ってるだろ? アレだよ」  それを聞いたヴァンは合点がいったと言う様に手を叩いた。 「成程、確かにあの《穴》なら……』  約500年前に初めて現れたと言う《穴》。それは世界の秩序の片割れたる《死》を無くした為に発生した、世界の秩序の最後の足掻きと言われる空間の歪みだ。それを直視した生物の存在は無に帰してしまう。 「それにしても《穴》って表現は間違ってると思わないか? だって何も無いんだぜ?」  エルは後ろにいるヴァンの方を向きながら話し続ける。同時に、ヴァンはエルの後ろに突如現れたものを見て、慌ててエルに声をかけようとした。 「あれはまさに虚──」 『エル、前を──」  前方不注意だったエルは厳つい髭面の男に思いっきりぶつかり、よろめく。飽きれるヴァンは思わずぼやいた。 「ほら、言わんこっちゃない……ってやつですね』  エルは睨みつけてくる男から離れ、まぁ一応、とでも言うかの様に軽く謝る。 「っと、すんません」  その男は二人を見比べるかの様に交互に見ると、ドスの効いた低い声で言った。 『ここから先は侵入禁止だ。 《穴》があって危な……ッ!?』
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