無死の夢視者

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 しかし既に死ぬ事は出来ず、人に永遠を与える石──賢者の石、と呼ばれる血の如く紅い石──を壊す事も出来なかった。石は壊せばその力を失い、人々が持つべきでは無かった永遠を奪えると言う。  だが、誰にも壊せなかった。  作った人間は既に殺されており、製造法も、そして破壊する方法も失われている。その上、いかなる手段を以ってしても、石に傷がつく事すら無い。更に政府が作られた今、石は厳重に守られ見ることすらも難しくなった。  だからこそ人々は政府から与えられた仕事をして自己を、そして正気を保ってきた。……その筈だった。  エルの問いに、ヴァンは静かに答えた。 「それでも私は生きます。 あなたが死ぬなら尚更です」 「もう十分生きたじゃないか…… 最初の300年で生きるのに飽きて、次の300年で生きるのに疲れて……3000年経った今では、人々は意思を失って人形の様になっている! これ以上生きて、お前は何をするっていうんだ?」  単調な仕事の日々に戻れば、ヴァンは再び自己を失うであろうと思ったエルは説得しようとするが、ヴァンは今度はエルをしっかりと見据え、そして反論に出た。 「それが消えたい理由ですか? 確かに、私もそう思います。 でも、意思を取り戻した私達が《永遠の命》を《限りある命》に戻さなくては他の人々が救われませんから」 「……石は壊せないぞ。 《永遠》は絶対に壊せない。 人間……いや、もう、誰にも壊せない」  渋い表情のエルを見て、ヴァンは微笑みを浮かべる。 「出来ますよ、絶対に」  エルは、静かに、そして強く言ったヴァンの目を見て悟った。  自分の意思を取り戻した彼は正気を保てるだろうと。そして、彼を説得する事は不可能だと。
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