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半分寝ぼけた、まだ起ききらない身体を引き摺って馨(かおり)は下の応接間へと向かい、階段を降りていると、予言されたかのように祖母が小難しい顔をして階段の下で待ち構えていた。
「いつまで寝ているのですか、デリーラ。いくら学校が休みだからと言って、だらけた生活は、この私が許しませんよ?」
キンキンに頭に響く高い声で小言をくらう。
さすがの寝ぼけた脳も、これのおかげでスッキリとはいかないまでも目覚めるというもの。
「おばあ様、朝から元気ですね。お年なのですから、もう少しゆっくりなさっていた方がいいのでは?」
「歳――とはいえ、寝たきりになっている暇はありませんよ。ったく、あなたのお父様が家業を継ぐ気になってもらうまでは――」
「はぁ……で、そのお父さんから連絡は?」
「ありません」
きっぱり、即座に切られた。
夏間近のこの季節、長い休みを家族で過ごすことだけを楽しみにしていた馨にとっては、父からの連絡があるのとないのとでは、この少しばかり気難しい祖母との生活の良し悪しが決まるというもの。
楽しみや目標があれば、前向きに過ごしていける。
それは、馨が何度と無く味わってきた環境から学んだことだった。
「まあいいですわ、私の息子でありながら、少しばかり悠長なところがありますからね。デリーラ、早く朝食を済ませなさい。午後から、少し私の手伝いをしてもらいます」
「おばあ様の?」
「えぇ、裏庭の手入れです」
「手入れ? ちょっと待って。そういうのって、庭師がやるんじゃないの?」
「いいえ。あそこだけは、私がこの貴邑家に嫁いできた時から、私の役目です。昔はおじい様が手伝ってくださったものです」
夫の話を持ち出すと、時折少女のような顔を見せるこの祖母と、少しだけ親近感がわくような気がする馨だったが、今はそんな思い出話を聞いている余裕はない。
午後からと言わず、今からでも直ぐに取り掛かり、残りの時間を自分の為に使いたい。
「わぁぁ……、おばあ様、その話はいずれ。庭の手入れ、喜んで手伝わせていただきますので、朝食いいかしら?」
慌しく祖母の横をすり抜け食堂へと向かう。
ただ広いだけの食堂には、1人分の食事が用意されていた。
それを口の中に放り込むと、着替える為に自室へと戻る。
そして再び祖母と顔を合わせた時、その祖母は完全防備で馨の到着を待っていたのだった。
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