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「随分と、お早いことで――デリーラ」
「お褒め頂き、光栄ですわ。おばあ様。でも、私は馨(かおり)。デリーラって、感じじゃないんだけど……って、何度もいいませんでした?」
「えぇ、聞いていますとも。そこまで耄碌(もうろく)していませんよ。しかし、あなたが好まずとも、ロシア貴族の血縁でもあるのですから、受け入れなさい。特に、私と暮らすのですから、ロシア名に慣れてもらわなくてはなりませんよ。そう、最初に言いませんでしたか?」
「ちゃんと覚えています。でも、ですね、おばあ様。ここは日本で、日本名でこの歳まで生活してきたのよ、今更ロシア名で呼ばれても」
「おや、そうなのですか? 幼少の頃はデリーラと呼ばれていたと、聞きましたよ?」
「それは――まぁ、子供心に、外国で日本名が恥ずかしかっただけで」
とは言ってみたものの、実際はどうだったかなんて、記憶にはない。
ただ今はどうしてもデリーラという名で呼ばれるのが、恐いのだ。
どうしてかなんて、馨自身にもわからない。
「この話はいずれ。今日は裏庭の手入れが重要です」
話をすり替えた祖母だが、絵に描いたような農作業姿では、威厳もへったくれもない。
綺麗なブロンド髪はきっちりと団子状に束ねられ、つばの大きい帽子の中に納まる。
白い肌も、直射日光から守る為か、衣服で覆われ、極めつけが顔の殆どを隠す程のサングラスの着用である。
「デリーラ。あなたも最低帽子にサングラスはなさいな。青い瞳には不向きですよ」
手にしていた予備の帽子を頭の上に置き、サングラスを手渡した。
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