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そんな愚痴をこぼしてはいるが、ロシア名の名付け親は祖母である。
幼少の頃、とても可愛がってもらった記憶がかすかにある。
父は祖父の血を色濃く受け継ぎ、ハーフでありながら外見は日本人そのものであったが、その父の血を受け継ぐ馨は、母親が日本人でありながら祖母の血を色濃く受け継いでいた。
隔世遺伝である。
外見はロシア人と殆ど似ており、そんな孫をとても可愛がっていたのは、昔昔のこと。
数年振りに再会してみれば、外見とは裏腹に中身は立派な日本現代の女子高生。
ロシア語はおろか、日本語しか話せなくなっている始末。
再会を楽しみにしていた祖母の落胆は、どれほどのものだっただろうか。
それを考えると、少しばかり申し訳なく思う。
――とは言え、だからと言って、なんでも祖母の言うがままに従うつもりはない。
「ちょっと待ってください、おばあ様。私が継ぐ? この裏庭だけを?」
「不服ですか? なら、この屋敷そのものを相続してくれてもいいのですよ? 誰も住もうとはしてくれませんしね。あなたが、続けて住んでくれるのであれば、なおいいのですが」
「だから、待って。どうして話がそう飛ぶの?」
「あなたの為だからですよ? 他に何があるというのです?」
「どういうこと?」
「それは、あなたが私の血を色濃く受け継いでしまっているから。今はそれしか言えません。一定の時期さえ過ぎてしまえば――」
いつもは遠慮なく口にする祖母が、言葉を濁らせる。
それは、これ以上踏み込んではいけないという警告にも受け取れた。
馨の反撃は結局、祖母の一方的な勝利で幕閉じとなる。
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