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「あの……」
迎えたばかりの春の冷たい空気に、透き通るような声が響いた。
ふと、スケッチブックから視線を外し、前方に向けると、そこに彼女は立っていた。
艶のある、きれいに整えられている黒のショートヘア。
華奢な身体のつくりで、少し幼さの残る顔立ち。
淡く、薄い水色のスモックに身を包んでいた。
「これ、落ちていましたよ?」
「えっと……?」
落とした視線の先の彼女の手には、一本のシャープペンシルが握られていた。
「……それ、ぼくのものではないみたいです」
そう返事をすると、親切にも尋ねてくれた彼女になんとなく申し訳ない気もした。
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