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ぼく絵を見終えた後、満足気な表情で、またね、とぼくに手を振った。
立ち去ろうとした彼女をぼくは呼び止め、なぜ最初嘘をついたのか、と聞いてみた。
彼女の心理がわからなかったのだ。
すると彼女はまたいたずらっぽい笑みを見せ、言う。
「落とし物を拾って男女が出逢う、なんて素敵でしょ?そんな運命的な出逢いを一度実現してみたかったの」
困った顔されたから止めたけどね、と付け加え、クスっと笑った。
なるほど、いまいち意味不明だが、彼女はドラマのような演出を望んでいたらしい。
ということはぼくは彼女からしたら役者不足?
そうこう考えてるうちに、再び手を振って彼女はぼくの下から去っていった。
それは、まるで春が過ぎ去って行くように。
夢だったのかもと疑うほど、あっという間の出来事だった。
今思えば、この時の彼女の第一印象もやはり、不思議な子だなぁ、というものだった。
ただ、彼女の描いた理想の形とは違えど、あの瞬間がぼくたちにとっての運命的な出逢いになったことは間違いない。
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