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そうだね、ありがとう、とニッコリと笑ってみせた彼女の頬には目元から一本の線が流れていた。
何故お礼を言うの?
君は笑っているのに………何故涙を流しているの?
この問いの答えをぼくが知るのは、この日よりも先の話だった。
彼女はぼくの不安気な気持ちを感じとったのか、あるいは自身の涙を隠したかったのか。
涙を腕で拭き取ってから、誤魔化すように桜の木めがけて元気に走り出した。
ぼくもせっかく桜を見に来たのだからと、この時はあまり気にしないことにした。
彼女は木にたどり着くと、今度は手招きしてぼくを急かし始める。
足が不自由で走れないぼくだが、少し早足で彼女の元へ向かった。
ようやくぼくもたどり着き、木の命を間近で感じてみる。
それから二人で眺めた桜は、今までで一番綺麗に感じた。
この日。
ぼくは彼女の気持ちに気づいてあげるべきだった。
彼女の言葉の意味を、込められていた思いを―
流さずに考え、全部受け止めるべきだったのだ。
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