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戦争が終戦してはや三日。僕は、軍としての仕事が数日休みとなり、家の中で穏やかな日々を過ごしていた。
「戦争が終わって嬉しいのは解るけど、今攻められたらこの国、滅ぶんじゃないのか」
心配はするが、軍の偉い人や王族が決めたのであれば、仕方がない。いつの時代であっても、権力に逆らうことは容易ではないのだから。
それにしても、嘘のようだ。あの地獄のような戦争を生き抜けたなど。兵の中でも弱兵で、殿や一番槍としてしか使われない部隊にいたのだ。その死亡率の高さから『死に神軍』なんて揶揄されていたほどだ。
共に戦ってきた仲間たちも数多くが、戦場に斃れてきた。しかし、なぜか僕は生き残れた。
本当に運が良かったのだ。だが、胸の奥にすっぽりと空けた穴は埋まりそうになかった。
戦争は、失うものばかりだった。勝ったとしても得られるものなど無に等しい。
今夜開かれる城内の祭りにも参加するつもりはなかった。
ただ孤独に、戦争で死んでいった仲間たちのことを想い今日は一日を過ごそうと考えていたのだ。
小さな物音がした。扉を誰かが軽く叩いている。
「…客人?」
家に訪れてくるような親しい友人は、この国にはもういないはずだと、疑問を抱きつつ扉へと向かう。
「どなたでしょうか?」
「カルマンです。扉を開けていただけないか?」
「か、カルマン将軍閣下ですか!?」
戦きつつも扉をすぐさま開ける。扉の先には、壁のように巨大な体躯をした厳ついおっさんがいた。
見た目だけで相手を威圧する風格を持っている。軍内では、将軍の中でも一二を争う剛腕の持ち主で、愛用している武器は巨大な斧である。
「カルマン将軍閣下、いったい私に何のご用でしょうか?」
少し困ったように苦笑いすると、カルマンは頭をかいた。
「…解っておるのだろ?聡しいお主ならば、儂が来た理由など言わんでも解るはずだ。どうして、誘いを蹴ったのだ?お主にも悪い話ではなかろう」
カルマン将軍は、戦時中に幾度となく捨て兵である僕たちを救ってくれた恩人である。
「…カルマン将軍閣下。私はもう疲れたのです。数日後には軍も辞める気でした」
「おいおい、英雄を辞めさせたとあっては、国として民に体裁が保てん」
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