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立て続けに三人がやられたからか、警戒して、また少し遠回りに囲む敵。いったい何者なのか。なぜ僕を襲うのか解らないが、この世界で剣を人に向けるという行為が、死ぬ覚悟があるということと同列だと知らない者はいまい。
ならば、僕は敵が剣を向けつづける限り、殺すことも厭わない。でなければ僕が死ぬ。
「ヤアヤア、ナカナカ強イナ?サスガ英雄ダ。デモ死ンデモラウヨ?」
不意に喋るリーダーらしき者。英雄だとばれている。
「あなたたちはいったい何者なんですか!?」
「クハハ。何者?シイテ言ウナラ」
「…邪神ダヨ」
襲い掛かってくる鎧武者ども。先ほどの言葉に動揺しつつも、身体に染み込んだ戦闘技術が自然に相手を屠っていく。
「…はぁはぁ」
傷を負いつつも、敵は倒した。しかし、死体を数えると9体しかない。どうやら戦闘中に一人逃げたようだ。
凄惨な光景に吐き気を催しもしない自分に嫌悪する。戦争でいつしか慣れてしまったことの一つだった。悲惨な死体を見て、吐いていては戦場を行進することさえできない。
それでいつしか吐かないようになった。気分が悪くなるのは、今でも変わらない。しかし、僕は何人も見てきた。死に慣れて死ぬことに何の抵抗も感じなくなった仲間を。きっと心のどこかが壊れたのだ。
僕だって、本当はどこかが決定的に壊れているのかもしれない。本当に戦場ってやつは好きになれない。
この凄惨な光景が、戦場を思い出させた。兜を剥ぎ取ると、その下には見覚えのない顔ばかりあった。年齢もばらばらであったが、死してなお幸せそうに笑顔で絶命している姿に鳥肌が立った。
それもすべての死体がである。気味が悪い。あの男が言った『邪神』。エリオットの言葉と関わりがあるのだろうか。
嫌な不安に押し潰されそうになりながら、僕はその場から逃げ去った。
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