狂愛 -キョウアイ-

3/6
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
 だから、嫌われるのが怖いと思った。君に嫌われたら生きていけないと思った。だから、君の言葉が嬉しかった。  君は言った。  僕の目を真っ直ぐに見て。それでも、どこか不安そうに僕に抱きつく腕に力を込めながら。  嫌いにならないで。私を置いて、どこかへ行ってしまわないで。そう言った。それから、いなくならないで、とも。  その声はまるで泣きそうに震えていて、でも、それがたまらなく愛しくて嬉しくて、僕は泣き出しそうだった。  抱き締める腕に力を込めて、僕は何度も頷いた。行かない。どこにも行かない。君を置いてどこにも行きはしない。  そう言うと、君は少し安堵したような、それでも悲しそうな表情を僕に見せた。それが、たまらなく苦しかった。  君は、こんなにも僕を必要としてくれる。僕を愛してくれる。僕が君を愛するように、君も僕を愛してくれていた。  だからこそ、僕は思った。  はっきりと明確に、それでも盲目的に。  いっそモヤのように漠然としていればよかったのかも知れない。そうすれば、きっと何かが変わっていたのかもしれない。  何も知らない、それしか理解出来ない子供のように、僕は呆然と考えた。  僕は、君を殺さなければならない。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!