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君の唇に、僕はそっと口付ける。甘くて、でも少しだけ苦かった。いつもは柔らかくて暖かい体の箇所が、今は少しだけ冷たかった。
僕を真っ直ぐに見つめてくれていた瞳。
僕の名前を呼んでくれていた唇。
僕に甘えて、何度も擦り寄せてきた頭。
僕を優しく包んでくれた腕。
僕を受け入れてくれた体。
そのすべて。すべてが愛しい。
君が僕のすべて。
……でも僕は、君のすべてだったんだろうか。すべてで有り得たんだろうか。
そう考えると、苦しくて涙がこぼれそうだった。胸が痛くて痛くて、引き千切れそうだった。
もしかしたら、僕は君のすべてではなかったのかも知れない。だって、君の周りにはいつも僕以外の人がいた。僕の周りには誰もいなかったけれど、君はいつもたくさんの人に囲まれていた。そして、その中で楽しそうに笑っていた。
愛されていたのは、僕だけだったけれど。……でも、僕は君のすべてなどではなかった。
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