chap.1 憧れの人。

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「こぉちゃん、ブラジャー透けてるよん♪」 そう言って、あたしのブラの肩紐をパチンと弾いてスキップしていく一人の男。 「ちょっ!蒼日先輩?!あほーっ!!」 その男は慌てるあたしを見て、クククと笑うと、バレーボールをバスケットボールのようにドリブルしながら、部活のアップのランニングを始める。 あたし、井上香羽(こはね)。 男子バレー部のマネージャー暦2ヶ月の、ピッチピチの高校1年生。 「もお!」 あたしは、ブラ紐を弾いて行った男の姿を見ながら、ほっぺをぷくぅと膨らませる。 「とか言って、顔ニヤケてるから」 クスクスと笑いながらそう言うのは、同じく男バレのマネージャーであたしの親友の麻生菜月。 菜月はさらさらのロングヘアで、ついこないだまで中学生だったのが信じられないような、美人で大人な雰囲気をしている。 汗臭い運動部のマネージャーには不釣り合いな感じさえしてしまう彼女だが、しっかり者で、結構厳しくて、なかなかの敏腕マネージャーだったりする。 そして、さっきあたしのブラ紐を弾いていった男は、あたしのよりひとつ年上の山下蒼日(あおい)先輩。 実は中学の時にあたしが一目見てファンになった人で、あたしは蒼日先輩を追いかけて、この高校に入った。 蒼日先輩に近づきたい一心で、中学までプレーヤーだった女バレを捨て、高校では男バレのマネージャーを選んだのだ。 蒼日先輩は、そんなに大きくない身長で、誰よりも高く飛び、空中でどんだけ止まってんの?!ってほど、滞空時間が長い。 そしてその細身な体からは想像できないくらい破壊力のある、それでいて、見惚れるほどキレイなスパイクを放つ。 困った時は蒼日に上げろ。 それが双葉高校男バレの鉄則。 まだ2年なのに、男バレの絶対エースなのだ。
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