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「上の階を除けば案外楽しいな博物館って」
「上の階を除けば、ね」
香穂と楽しく談笑しながら博物館をまわる廉。展示物を見たり映写室で映像を見ている内にもう時間は50分以上経っていた。
「わぁ、もうこんな時間かぁ。
じゃあ最後にあれ、あれ見よう!」
「あれ?」
「ティラノサウルスだよう!ティラノサウルスの全身骨格!」
「あぁ、そういえば見てなかったね。
よし、行こっか」
「うん!」
その頃、博物館の近くのビルの屋上に人影が一つ。
身長は160cmくらいと小柄で、中学生位の様だ。顔立ちもそれを感じさせる童顔だが、つり上がった目元と坊主頭に入った剃りこみが威圧感を与える。服装はファスナーのついていないぶかぶかの紺色のパーカーで下はジーンズに白のスニーカーを履いている。
そして片手にはケータイが握られている。どうやら誰かと通話してる様だ。
「もうすぐだよ、姉貴。
大丈夫、首尾通りやるさ」
『カイル。言っとくが時間が余ったりしたからといって……
遊ぶなよ?』
「わかってるよ!どれだけ俺信用してねぇんだよ!」
『口では言い表せん。
じゃ、上手くやれよ』
「あっ!姉貴?!
……切りやがった」
カイルと呼ばれた少年は苦い顔をしながらケータイをしまう。
「わかってるさ……
5年待ったんだこの日を……
俺達兄妹は……」
カイルがパーカーのフードをかぶる。
そしてカイルの口から、はみ出す程の長さの鋭い犬歯が伸びる。爪も同様だ。
「姉貴の言葉を借りれば
ワシントン再び、
か?ははっ」
カイルは楽しそうに笑い、ビルの下を通る男性を確認すると
彼めがけビルの壁を、駆け降りた。
運命の時まで、あと5分……
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