僧侶の手記

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138 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/05(火) 05:58:15.98 ID:RffJ7xz2o 雨が降りだした。 冷たい雨が私たちの体温を容赦なく奪う。 勇者も戦士も魔法使いも、みんな白い顔をして震えている。 私も同じような顔をしているのだろう。 雨は止む気配すらない。 勇者が嫌な咳をしている。 勇者が高熱を出し、歩くことすらままならない。 馬車に寝かせてはいるが、碌な薬も無く、長時間の休養も出来ない。 悪化する一方だ。 雨はまだ振り続けている。 勇者の咳に赤いものが混じりだした。 移動魔法で戻る案も出たのだが、今の状態で使用すれば彼の命の危険すらある。 だが、このままでは死んでしまうだろう。 魔物が原因での死では無い場合、蘇生は不可能。次の街まで早くて三日。 決断を迫られる。 採取した魔物の体液を馬車に持っていった時、勇者は全て理解したようだった。 お願いだからそんな優しそうな目で私を見ないで。 毒を持つ体液を嚥下した後、血を吐いて動かなくなった彼を馬車に残し、私たちは進む。 雨音が私を責め続ける言葉のように聞こえた。 街はまだ見えない。 雨に氷が混ざってきている。 真っ白な雨が降り出した。 これが話しに聞く雪なのだろうか。 急激な冷え込みの為か、魔物の姿は少なく、動きも鈍い。 勇者がいないことを考慮し、出来る限り戦闘を避け、先を急ぐ。
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