僧侶の手記

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163 : ◆Vcef9xkjaI :2011/07/07(木) 00:47:36.81 ID:uugOgiDlo 次に向かうのは英雄の国。 いくつもの街から英雄が集まる国。 幾度もの魔物の進行を退けた最後の大国。 彼らは何を思って、何のために戦っているのだろう。 旅の途中、以前から勇者が吸っていた葉巻をじっと見つめていたら、そっと無言で手渡された。 最初は煙たいだけだったが、今はとても楽しい気分だ。 世界はどこまでもゆらゆらしてとても綺麗。 ゆらゆら。ゆらゆら。 最近、記憶がとても曖昧だ。 自分が消えていく。 やめよう。今日こそはやめよう。 ここ数日、夜の馬車でお酒と煙を楽しむのが日課になってきた。 みんなの顔も明るい。 勇者が、戦争がどうの、滅亡がどうのと話していたが、あまりよく覚えていない。 6が5になったのがそんなに大変なことなのだろうか? 誰かの顔が浮かんだが、知らない女の人だったので忘れることにした。 思えば、昨日のこともよく思い出せないが、きっとどうでもいいことなのだろう。 辛いことがあったのに思い出せない。 頭が重い。体がだるい。 街に到着したことだし、今日は早く眠ろう。 辛いことは全部忘れよう。 明日はいい日でありますように。 どこまでもどこまでも青空が広がっていたこの日を忘れない。 戦士と魔法使いが祝福する中、小さな教会で彼が指輪をくれた。 涙が止まらない。 嬉しいのに、幸せなのに、悲しくて辛くて涙が止まらない。 嬉しくてごめんなさい。 幸せでごめんなさい。 私の幸せを祈ってくれた、あなたの顔を思い出せなくてごめんなさい。 この日だけは忘れたくない私を許してください。
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